Weinberg N. Nihon no bijinesu bamen no homekotoba |
30.06.2016 г. | |
日本のビジネス場面のほめ言葉-日露ビジネス関係者の視点から-【キーワード】日露ビジネス・コミュニケーション ビジネス場面 インタビュー調査 ほめ言葉 1. はじめに 本論の目的は、日露ビジネス関係者のインタビュー調査中に収集した意見・考え方や実際のコミュニケーション例などの分析を基に、日本とロシアのビジネス場面で使用されるほめ言葉を対照し、日本のビジネス場面におけるほめ言葉の特徴を明確にすることである。 日本とロシアでのほめ言葉の研究を見ると、日本では「ほめ」の研究が進んでいる。先行研究のうち、「ほめ」について以下のような定義がある。 「ほめるという言語行為は、話し手が聞き手あるいは聞き手の家族やそれに類する者に関して"よい"と認める様々なものあるいはことに対して、聞き手を心地よくさせることを前提に、明示的にあるいは暗示的に、肯定的な評価を与える行為である」[1]。 「相手自身、あるいは相手に関連する「よい」と認めうるものごとについて、明示的あるいは暗示的に肯定評価を与えることによって、相手への好感情を表す言語 行動」[2]。 「話し手が聞き手あるいは聞き手にかかわりのある人、物、ことに関して「良い」と認める様々なものに対して、聞き手を心地よくさせることを前提に、直接的あるいは間接的に、肯定的な価値があると伝える言語行動である」[3]。 ロシアの先行研究の中でほめは「話し相手、あるいは会話に参加しない第三者の行ったこと、行動や態度、達成した成果、持ち物などに対して名宛人の肯定的な感情反応を引き起こす、あるいは名宛人の自尊心を高める目的で使用される肯定的な評価である」と定義される[4](訳は筆者)。 日本のビジネス場面におけるほめ言葉の先行研究も管見の限り見つけられなかったため、調査を行い、その結果に基づいて、できる限り具体的で、信用できる結論を得ようとしたものである。 2. 研究方法 2.1 質的研究方法、インタビュー調査とその内容 本研究では日本とロシアのビジネス場面におけるほめ言葉の特徴、類似点と相違点を知るためにグラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach: 以下、GTA)という質的研究方法の一つによって、インタビュー調査から得たデータの分析を行った。グラウンデッド・セオリー・アプローチの最終結果は、「データから創出された、あるいはデータに「根ざした(grounded)理論構築」にあるため、GTAと呼ばれる」[5]。 まず、インタビュー調査のテーマを「日本とロシアのビジネス場面におけるほめ言葉」とし、分析焦点者を日露ビジネス関係者と設定し、実際の異文化間ビジネス・コミュニケーションの経験を持つ日本人とロシア人にインタビューを行った。 インタビュー調査は2015年5月から8月にかけて行われ、各インフォーマントに12程度の日本とロシアのビジネス場面におけるほめ言葉に関する同じ質問をして、インタビューの録音を文字化し、GTAの代表的な『グラウンデッド・セオリー』[6] に基づきデータの分析を行った。 日本とロシアのビジネス場面におけるほめ言葉の使用の特性を明確にするために、各インフォーマントに相手側のビジネス場面のほめ言葉や記憶に残った言い方などについて質問を行った。なぜならば、母語でのコミュニケーションは自然なものであり、特徴は気づきにくいものであるが、異文化の代表者として相手のビジネス習慣を見ると、珍しく、すぐには受け入れがたいところがたくさん見えてくるため、様々な特徴を見つけられる可能性が高い。 本研究の分析過程は三つの段階からなっている。初期段階ではビジネス場面のほめ言葉の分類に関し、回答から主なアイデアを取り出した。その後、ふさわしいと思われるコンセプトのラベルを貼り付けて、中期段階ではコンセプト同士の比較から共通点や相違点を見出し、考え方や例の特徴やつながりを探求し、データの切片化を行った。最終段階ではコンセプトの関連性が深まり、その結果データを「普遍な事柄」と「特殊的な事柄」というグループにまとめ、データに基づいたビジネス場面におけるほめ言葉の使用に関する理論を形成した。 2.2 インフォーマント インタビュー調査では36人が参加し、インフォーマントは全員日露ビジネス経験者で、日本人19人、ロシア人17人がインタビューに応じた。 日本人のインフォーマントは、ロシアとビジネス関係を持っている会社に勤めている人で、国際コミュニケーションの豊富な人である。ロシア人のインフォーマントは日本で、あるいは日本と関係のある仕事をし、仕事の分野は教育、通訳、IT、日本のスポーツ機関、貿易会社、メーカーなどである。 個人情報を守るため、分析の中では各インフォーマントを記号で表す、日本人のインフォーマントは「N」、ロシア人は「R」とし、それに続き、インタビューの順番に従って、N-1、N-2、R-1、R-2のように表す。 3. 考察と結果 インタビュー調査のインフォーマントであるロシア人も日本人も同様にビジネス・コミュニケーションの場面を2つの大きなグループに区別していることが分かった。それは(1)会社、組織などの内部(以下「1(社内)」)の上司、同僚、部下などとのビジネス場面、(2)自分の会社、組織などと以外の顧客、パートナーなどのような人との(以下「2(社外)」)ビジネス・コミュニケーション場面である。その他、改まりによって、ビジネス場面は「A(公式)」なコミュニケーション場面(交渉、顧客の歓迎会、面談など)と「B(非公式)」なコミュニケーション場面に分けられ、外食、飲み会、社員旅行のような非公式のコミュニケーションが「B(非公式)」な場面にあたる。 両国のインフォーマントによると、日本では社内の公式的な場面である1Aのコミュニケーション場面ではほめ言葉はあまり使われていないが、社外の公式的場面、特に顧客やパートナーと同席するような2Aのコミュニケーションではほめ言葉が多く使用される。また、社内の非公式な場面である1Bでも多用されるが、2Aとは様相が異なる。社外の非公式な場面である2Bは実際には存在しない。 3.1具体的な場面での実際のほめ言葉 3.1.1 挨拶 「素敵なネクタイですね」、「髪型、格好いいですね」、「きれいなドレスですね」などのような言い方がビジネス場面で多く使われているかどうかと日本人、ロシア人のビジネス関係者に聞いてみた。 回答によると、日本人もロシア人も初対面の人に対して、あるいは改まった場面(1A、2A)では外見や服装に関するほめ言葉の挨拶をほとんどしない。が、ロシアでは以前会った人に対して(1A、1B、2A、2Bの場面で)は遠慮せず挨拶としてほめ言葉は言えるようである。ロシアのビジネス場面では相手の外見に注目を払うことが多く、「今日はいい外見をしていますね」、「この色・シャツ・服装はお似合いですね」というような言い方が広く使われる。特に、ロシアの女性たちは職場へ新しいドレスやきれいなアクセサリーをつけていった場合、髪型を変えた場合、それに関してほめ言葉を期待し、言ってもらうことが普通である。男性の服装(スーツ、ネクタイなど)に関してほめ言葉を聞くことも珍しくない。ロシア人のインフォーマントの多くが疑いもせず、「もちろん、ロシアでは挨拶としてほめ言葉はよく使われている」と言う。 R-3の意見では「日本で挨拶のほめ言葉は顧客に対してよく使われる。あるいは会話の導入部分としても使われる。ビジネスの話にいきなり入れないので、最初は少しのほめ言葉の交換や、共同の雰囲気を作るための話をする」。そのコンセプトをもう少し広げると、日本のビジネス社会ではほめ言葉は挨拶としてだけでなく、顧客、パートナーとの対話の導入部分として使用されることがあるということが分かる。社外のビジネス対話をする前に必ず社交的で、儀礼的な話をすることになっているということである。 その時、相手に関連するものをほめることが普通であるが、日本のビジネス場面では相手の外面や持ち物をほめるのではなく、所属組織や相手の故郷(例えば、「秋田県は美人が多い」(N-13))などをほめたりする。 日本ではほめ言葉の使用が相手との関係と強く関わるようである。つまり、親しくない人に対して外面的なほめ言葉は話のきっかけとして使われる。可能性のある顧客、あるいは実際の顧客の外見や全ての動作に対して「激しい」、浴びせかけるようなお世辞(得られた回答では「お世辞」は①同僚や下位者にほめられること、②大げさにほめられること、③自分の納得できない仕事に関してほめられること、④場面に関係なくほめられることである」)がよく使用されるが、相手がビジネス場面で仲のいい人、あるいは会社の同僚であれば、外面的なほめ言葉は言わないようである。 日本人のインフォーマントによると、初対面でほめることは外面や持ち物より、(1) 名前の名声、(2) タイトル、(3) 所属組織、(4) 扱っている商品、(5) 故郷などが多い。つまり、日本人は直接に相手をほめるのでなく、相手に関係しているものをほめていると考えられる。例えば、「あ、岩手、素晴らしいですね。いいことがたくさんあって、美しいものがたくさんありますね」(直接の引用)(N-13)というようなほめ言葉が初対面で使われる。 3.1.2 会話のつなぎ 社外のビジネス場面で会話のつなぎとして何かを言う必要がよく現れる。その目的でほめ言葉が使われる場合がある。日本のビジネス場面では会話のつなぎとして相手に対するほめ言葉が「よく」、あるいは「時々」使われるとほとんどのロシア人インフォーマントが指摘するが、ロシアのビジネス場面に関しては「時々使われる」、あるいは「あまり使われない」という両国のインフォーマントの答えが典型的である。 ロシアでは会話中に中断が現れたら、そのまま黙り続ける人もいるし、あるいは自分のことや物などについての話しを始め、自慢することが珍しくない。日本人のインフォーマントも同様なことを指摘し、「日本人は相手を持ち上げる性格であり、相手をほめているが、ロシア人は相手をほめるより、自分の自慢を言う方が多い」(N-15)と言う。 更に、ロシア人のビジネス関係者は日本の社外のビジネス場面におけるほめ言葉(2A)に慣れていないようであるから、対話中に多くほめられると、どういう風に対応すればいいかと混乱してしまうことが多い。R-7は「ロシア人は日本のほめ言葉になれていない。交渉の時に、日本側からほめ言葉が言われ、それを返そうとしている。言われたことを全部信じている。それは第三者の立場から見るとおかしい。ロシア人、外国人とよく働いている日本人はその特徴をうまく使っている。外人に何かいいことを言ってあげると、なんでもできるようになると分かっているから」という日本の企業で勤めるロシア人の意見もある。 3.1.3 依頼 両国の回答者によると、日本では依頼の時に以下のようなほめ言葉が一般的であると考えられる。 ① 依頼内容に当てはまる相手の能力に対するほめ言葉(「字がきれいだから、これに記入できますか」、「Excelプログラムがよく分かっているので、少し手伝ってもらえませんか」、「~のものすごい専門家なので、~の会議に参加・~を説明していただけますか」、「~が得意だから、~をしてほしい」などのような言い方); ② 相手の仕事のやり方をほめる(「あなたはすごく早く・きれいに・細かく・丁寧に~をしていますので、~をお願いできますか」、「責任を持っているから、~をしてもらえますか」、「あなたは簡単に何でもできるでしょう」など); ③ 相手の特異性(ユニーク性)を強調する言い方(「余人をもって代え難し」ということわざまで存在している日本の社会では「あなた以外にお願いできる人がいないから」、「あなたでなければ、無理です」などがよく使われるようである; ④ 相手に対する自分の肯定的な評価を表してほめる言い方(「あなたの会社の仕事を評価しているから、~お願いしている」、「あなたを信用しているから、~この仕事を頼む」など)。 ほめ言葉の他、日本のビジネス場面で依頼をする時にお詫び(「お忙しい所、申し訳ありませんが、~お願いできますか」など)と話し手を巻き込む言い方(「それをしないと、大変困ります」、「~ていただければ、大変助かります」など)が広く使われるようである。 3.1.4 批判の和らげ 両国のインフォーマントの回答から、日本とロシアのビジネス場面での批判の仕方は極めて違っているということが分かった。 日本人は、ビジネス場面でいきなり批判を言うことは珍しく、普通は批判を和らげることにしていると考えられる。日本の上司はロシア風に「これは何だ?あなたは何をしていたの?どこを見たの?」(R-3)のように言わないようである。「あなたはいつも丁寧に仕事をしていて、素晴らしいですが、ここはちょっと注意してほしい」のような言い方をすることになっているようである。日本の上司がどれほど怒っていても、部下に対して丁寧に批判を言うことの方が多い。もちろん、例外もあり、物を投げたり、大きな声で叫んだりする日本人の上司について話したインフォーマントもいるが、最近日本で「パワハラ」と言う概念がだんだん浸透し、ほとんどの会社では上司の言い方に注意が払われていると考えられる。その他、現在は仕事を変えることが比較的に容易になったから、上司の丁寧でない言い方を我慢して受け入れる人も少なくなったと答えるインフォーマントもいる。 日本人のインフォーマントが指摘するように、20年以上前には、日本のビジネス場面で批判を言う時に肯定的な表現が余り使われておらず、いきなり言うことが多かったが、アメリカのコーチング・テクニックやデール・カーネギーの著作の影響で批判の表し方が少しずつ変わってきたと言う。 日露ビジネス関係者によると、ロシアの上司は普通、相手のことを考えず、直接、厳しく批判の言葉を言うことが多く、それはロシアの文化的、言語的な習慣であるかもしれないと思う人もいる。どうしてかと言うとロシアでは、「自分が思っていることを正直に言った方がいい」、「へつらっているように見えるより、自分が思っていることをストレートに言った方がいい」という考え方が強く、「ロシアで育てられたから、日本の職場でロシア風に言いすぎる、あるいは思っていることをストレートに言うから、時々私自身が困ってしまう場面がある」というインフォーマントもいる。 Ÿ 回答者によると、ロシアのビジネス場面の批判の特徴は次のようである。 ① ポジティブな導入部分、あるいはポジティブなフォローはほとんどなく、逆に「以前よくできたことが全て忘れられてしまったような感じがする」(R-14); ② 導入部分があるとしても、ほめ言葉でなく、「あなたは大人でしょう」、あるいは「責任もって仕事ができる人」、「それなのに、どうしてこんなことをしているんだ」)という言い方が多い; ③ 率直な批判の言い方は相手に対する配慮、尊敬として見られる時もある。 Ÿ 日本のビジネス場面の批判の特徴は以下の通りである。 ① ポジティブな導入部分、あるいは批判後の、ポジティブなフォローがよくあること; ② 批判の言葉の前に、普通は「ですが」が使用される; ③ 「あなたは素晴らしい」のような導入部分が長ければ長いほど、批判の内容が深刻になる; ④ 日本人は批判の必要な難しい、困った場面でほめ言葉を使用している。 日本の企業で勤めているロシア人には、上司からほめ言葉の後に「ですが」を聞くと怖くなると言う人が多い。その他、上司から長くほめられると不安を感じて、ほめ言葉の後で深刻な批判があるはずだと感じられるということが典型的である。 日本人は率直に批判を言えない場合、批判の言葉の代わりにたくさんのほめ言葉を言うことがある。例えば、社内の場面で「あなたは素晴らしい専門家で、素晴らしい経験、業績などを持っています。現在、こんな時になっているのは大変ですね」のように、その場面では何かがおかしいと伝えるためにあいまいで、ほめ言葉の多い言い方をしている。「あなたはすごくいいけど、この状況はあまりよくないというコントラストを見せて、相手に対してネガティブなことを言わず、場面自体がおかしいと示している」と言うインフォーマント(R-9)がいる。 3.1.5 感謝 「ありがとう。あなたがいないと困ります」というような言い方はロシアのビジネス場面でよく見られる。ロシアのビジネス関係者は「感謝+ほめ言葉」を方略として言ったり、受け取ったりしている。対話参加者はお互いにその言い方は方略であると理解していても、素直に肯定的に受け取り、積極的に使用し続ける。R-11は「ロシア人のパートナーは感謝の時にほめ言葉をよく言いますよ。例えば、「あなたのカリスマ性は何にも比べ物にならないよ」、「あなたがいないと困るよ」と言ってくれる」と語っている。ロシアではそのような言い方ははっきりしたお世辞であると理解されていても、エチケット、あるいは大切な相手を喜ばせるための決まり文句として使われることが多い。 ロシア人同士ではこのような言い方はよく使用されているが、ビジネス場面で接触する日本人に対して意識して方略として使うロシア人は少ない。どうしてかと言うと、日本人の相手は「感謝+あなたがいないと困ります」のような言い方を聞いて喜ぶかどうか予想できないからである。例えば、「恥ずかしがって、あるいは対応せず受け取る可能性がある」から、「あなたがいないと、この仕事はできない」というようなはっきりしたお世辞は言いにくいと考えられ、日本人に対しては言えないようである。 ロシア人のインフォーマントの考えでは、日本人は「感謝+ほめ言葉」のような言い方を方略として使わず、使う場合でも、事実として使うことが普通である。日本のビジネス場面でも感謝に付け加えるほめ言葉を聞いているが、それは「実際に、何かがよくできた時などしかに言わない」と考えられる。 日本人の回答を見てみると、ロシア人は感謝の時にほめ言葉をほとんど言わないという意見が強く、日本で一般的に使われる「とても役に立ちました」、「~おかげで、とてもうまく行きました」、「迅速な対応で、ありがとうございました」などに比べて、ロシア人から感謝に関連するほめ言葉を聞かないようで、ロシア人は無愛想であると思われている。 4. まとめ 本研究のインタビュー調査に得たデータをGTAによって分析し、日本とロシアのビジネス場面のほめ言葉について考察した。日露ビジネス関係者の視点からの日本のビジネス場面におけるほめ言葉に関して以下のような結論を得た。 ① 日本のビジネス場面のコミュニケーションは「1(社内)」と「2(社外)」という2つのグループに分けられる。その他、場面の改まりによって、コミュニケーションは「A(公式的)」と「B(非公式)」な場面に分けられ、全てのビジネス場面は1A、1B、2A、2Bのように区別できる。2Bという非公式な社外のビジネス・コミュニケーションの理論的な想像は可能であるが、実際に存在しないということが分かった。 ② 日本では、社内のビジネス・コミュニケーションでほめ言葉のある場面は制限されている。1Aの(社内の公式の)場面でほめ言葉があり得る場面として一年間に2回ほど行われる面談が挙げられる。1Bの(社内の非公式な)コミュニケーションの中でほめ言葉の最も多く聞かれる場面は飲み会、社員旅行などであり、その時に事実と合っていないほめ言葉でも珍しくない。その他、日本では批判の和らげとしてほめ言葉を使うことが常識として認識され、1Aの(社内の公式の)場面でも、1Bの(社内の非公式な)場面でも使うのが一般的である。 ③ ほめ言葉の最も多く、意識して使用される日本のビジネス場面は2Aの(社外の公式の)コミュニケーションであり、話し手の所属会社の可能性のある顧客、あるいは現在の顧客などに対する挨拶や会話のつなぎとしてのほめ言葉、全ての場面ではいわゆる「激しい」、浴びせかけるようなお世辞が広く使われる。2Bの(社外の非公式な)ビジネス・コミュニケーション場面は実際に存在しないから、異なる会社の業務員、あるいは顧客とのビジネス・コミュニケーションは全て公式的なもの、2Aになる。ロシア人のインフォーマントのほとんどが意識してほめ言葉を言わないと答えており、意識してほめることについて考えたことがない人もいる。 ④ 日本では社内と社外の依頼や感謝などのような個人的な関係が入るビジネス場面(1A、1B、2A)、あるいは批判のような(1A、1B、2A)難しいビジネス場面などでは相手との円滑なコミュニケーションを維持するためにほめ言葉を使うことが常識になっている。ロシア人の感謝や依頼の仕方が日本人に無愛想なイメージを与えることが多い。 本研究で行われた考察、分析とその結果は日露ビジネス・コミュニケーション場面で表れる相互不満を予防し、円滑なコミュニケーションを維持するために使用できると思われる。 【謝辞】 本論文の執筆にあたって、東京外国語大学の坂本惠先生に大変貴重なご意見、ご助言をたくさん賜り、心より感謝申し上げます。日露ビジネス関係者の伊佐山輝洋様に15年間以上日本の伝統、ビジネス習慣などのご指導、ご説明をいただき、深く感謝致します。インタビュー調査に協力してくださった36名の日露ビジネス関係者の皆様にも御礼申し上げます。 【参考文献】 [1] 小玉安恵「対談インタビューにおけるほめの機能(1)」『日本語学』第15巻5号、 1996、 59-67 p. [2] 大野敬代『日本語談話における「働きかけ」と「わきまえ」の研究 : 目上に対する「ほめ」と「謙遜」の分析を中心に』博士学位論文、早稲田大学、2010. [3] 金庚芬『「ほめの談話」に関する日韓対照研究 -日・韓大学生の会話データを用いて-』博士学位論文、桜美林大学、2006. [4] Diachkova, I.G.: Дьячкова, И.Г. Высказывания-похвалы и высказывания-порицания как речевые жанры в современном русском языке. Диссертация на соискание ученой степени кандидата филологических наук. Омский государственный университет, 2000 - 141 с. [5] 中嶌洋『初学者のための質的研究26の教え』医学書院、 2015 - 124 p. [6] Strauss, A. & Corbin, J. Basics of Qualitative Research: Techniques and Procedures for Developing Grounded Theory. SAGE Publications, 1998 - 456 p. |
|
Последнее обновление ( 22.07.2016 г. ) |
« Пред. |
---|