Kudoyarova T. Kakikotoba ni okeru ryakugo no shiyo teichaku to sono yoin |
30.06.2016 г. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
書きことばにおける略語の使用・定着とその要因 |
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| コンビニ/コンビニエンスストア | 携帯/携帯電話 | ||||||
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| 判別的中率: 74.9% 相関比=0.378 | 判別的中率: 71.2% 相関比=0.172 | ||||||
アイテム | カテゴリー | 用例数 | カテゴリースコア | レンジ | 偏相関係数 | 用例数 | カテゴリースコア | レンジ | 偏相関係数 |
①紙面 | 総合面 | 88 | 0.097 | 0.427 | 0.100 | 568 | -0.043 | 0.996 | 0.105 |
社会面 | 235 | -0.198 | 899 | -0.236 | |||||
経済面 | 110 | 0.143 | 406 | -0.240 | |||||
オピニオン面 | 82 | 0.229 | 334 | 0.527 | |||||
生活面 | 54 | 0.067 | 209 | 0.756 | |||||
②出現位置 | 1回目 | 407 | -0.345 | 1.213 | 0.382 | 1311 | -0.581 | 1.270 | 0.266 |
2回目以降 | 162 | 0.868 | 1105 | 0.689 | |||||
③記事の長さ | 300字まで | 101 | -0.244 | 0.297 | 0.078 | 299 | 0.208 | 0.237 | 0.034 |
それ以上 | 468 | 0.053 | 2117 | -0.029 | |||||
④文脈的意味 | 一般的 | 385 | 0.203 | 0.629 | 0.171 | 1484 | 0.038 | 0.098 | 0.020 |
特定 | 184 | -0.426 | 932 | -0.060 | |||||
⑤引用か地か | 引用文 | 56 | 0.864 | 0.959 | 0.206 | 203 | 1.039 | 1.134 | 0.139 |
地の文 | 513 | -0.094 | 2213 | -0.095 | |||||
⑥文章の様式 | 普通体 | 537 | 0.009 | 0.156 | 0.026 | 2265 | 0.050 | 0.804 | 0.079 |
丁寧体 | 32 | -0.147 | 151 | -0.753 | |||||
⑦文章の人称体 | 一人称体 | 87 | 0.826 | 0.975 | 0.202 | 417 | 0.906 | 1.095 | 0.123 |
三人称体 | 482 | -0.149 | 1999 | -0.189 | |||||
⑧文の構造 | 主節中 | 262 | 0.111 | 0.206 | 0.077 | 971 | 0.108 | 0.180 | 0.040 |
従属節中 | 307 | -0.095 | 1445 | -0.072 | |||||
⑨列挙構造 | 列挙 | 171 | 0.069 | 0.099 | 0.032 | 464 | -0.000 | 0.000 | 0.000 |
非列挙 | 398 | -0.030 | 1952 | 0.000 | |||||
⑩署名の有無 | 署名記事 | 252 | 0.131 | 0.235 | 0.071 | 1059 | 0.019 | 0.034 | 0.006 |
無署名記事 | 317 | -0.104 | 1357 | -0.015 |
なお、以下では、数量化理論Ⅱ類の用語に従って、「説明変数」を「アイテム」、その値(分類項目)を「カテゴリー」ということがある。
判別的中率と相関比は、判別式による解析の精度(設定した説明変数全体で、基準変数である事象をどれくらい説明できているか)を示す指標である。一般に、判別的中率は75.0%以上、相関比は0.25以上であれば解析精度がよいとされている。今回の結果は、いずれも、決して大きな値ではないが、許容できないほどの小さな値でもない。
レンジと偏相関係数は、設定したアイテムの、基準変数に対する効果(影響力)を表す。レンジは、各アイテムにおいて最も大きなカテゴリースコア(後述)と最も小さなカテゴリースコアとの差であり、偏相関係数は、他の変数の影響をすべて取り除いたときのアイテムの影響の大きさを表す標準化された係数である。表1によれば、これらの値の大きな、すなわち、略語か原語かの選択に影響力のあるアイテムは、「コンビニ(エンスストア)」では、
②出現位置>⑦文章の人称体>⑤引用か地か>④文脈的意味>①紙面
の順となり、「携帯(電話)」では、
②出現位置>⑤引用か地か>⑦文章の人称体>①紙面>⑥文章の様式
の順となって、ほぼ同様の結果となった。
カテゴリースコアは、他のアイテムの影響をすべて取り除いたとき、そのカテゴリーに属すことが基準変数に及ぼしている影響の大きさと向きを表している。影響の大きさは絶対値の大きさによって表され、表1では、向きが正ならば略語を、負ならば原語を選択・使用することを表すようになっている。これにより、たとえば②(記事内の)出現位置というアイテムでは、どちらの略語原語対でも、<1>1回目(初出)であることは原語を選択・使用する方向に、<2>2回目以降であることは略語を選択・使用する方向により強く作用していることがわかる。
次節では、影響力の大きさの順に各アイテムのカテゴリースコアを見て、略語の口語性との関係を探る。
7.結果の検討
②記事内の出現位置は、「コンビニ(エンスストア)」「携帯(電話)」の両方で最も大きな影響力をもち、最初<1>に正式な名称としての原語を用い、<2>2回目以降は字数節約のために略語を用いるということであり[10]、このことは、基本的には、略語の使用・定着の度合いの違いにかかわらないようである。ただし、<1>1回目のカテゴリースコアの絶対値は、「携帯(電話)」(-0.581)より「コンビニ(エンスストア)」(-0.345)の方が小さく、1回目を原語とする力は後者の方が小さい。このことは、「コンビニ(エンスストア)」では「原語は正式=文章語的で、略語は略式=口語的」という度合い、すなわち、略語の口語性が弱まっていることを示唆しているように思われる。
⑤引用か地かというアイテムも、「コンビニ(エンスストア)」「携帯(電話)」の両方で大きな影響力を持ち、<1>引用文が略語を選択・使用する方向に大きく作用し、<2>地の文はわずかに原語を選択・使用する方向に作用するという点でも共通している。話し手の発言・談話を示すことが多い引用文で略語の選択・使用が促進されるということは、略語が口語性を持っていることと整合する。ただし、その度合いは、「コンビニ(エンスストア)」(0.864)の方が「携帯(電話)」(1.039)より小さく、略語の口語性が弱いことを示唆している。
⑦文章の人称体も、「コンビニ(エンスストア)」「携帯(電話)」の両方で大きな影響力を持つ。投書などに代表される一人称体の記事は、多くの場合、三人称体の記事に比べて口語的であり、また、書き手の用語がそのまま掲載されることも多いことから、略語使用が促進されるのであろう。ただし、ここでもその度合いは、わずかではあるが、「コンビニ(エンスストア)」(0.826)の方が「携帯(電話)」(0.906)より小さく、略語の口語性が弱いことを示唆している。
①紙面も、「コンビニ(エンスストア)」「携帯(電話)」の両方で影響力を持つが、「携帯(電話)」での影響力の方がより大きい。「携帯(電話)」では、カテゴリーの間に、<5>生活面、<4>オピニオン面では略語の選択・使用が、<3>経済面、<2>社会面では原語の選択・使用が促進されるという明確な差があり、これは、生活面・オピニオン面は口語的、経済面・社会面は文章語的な性格が強いという、紙面の文体的な違いときれいに対応している[11]。一方、「コンビニ(エンスストア)」では、紙面の文体的な違いと対応するような傾向は見られない。こうしたことは、「コンビニ(エンスストア)」の方で略語の口語性が弱まっていることを示している。
⑥文章の様式は、「コンビニ(エンスストア)」ではあまり影響力がないが、「携帯(電話)」では、<2>丁寧体の記事で原語の選択・使用が促進されるという結果が出ている。
1) 携帯電話は、我が家では必要不可欠です。(「オピニオン面」、2006年)
これは、略語「携帯」の口語性が強く、丁寧体と整合しにくいことによるものだろう。一方、こうしたことが「コンビニ(エンスストア)」で見られないということは、略語「コンビニ」の口語性が弱まり、原語との文体差が小さくなっていることを示している。
④文脈的意味は、「携帯(電話)」ではほとんど影響力がないが、「コンビニ(エンスストア)」では、<2>特定の店を表す場合に原語の選択・使用が促進されるという結果になっている。これは、特に社会面記事で、事件などの発生場所として特定の店が示される場合、原語「コンビニエンスストア」が使われることが一般的であることと関係している。
3)5日午前4時半ごろ、大阪府東大阪市吉原2丁目のコンビニエンスストア「ローソン東大阪吉原店」で、新聞などを買うふりをしてレジに近づいた男が男性店員(20)に包丁を突きつけ、「金を出せ」と脅した。店員がレジから現金約20万円を取り出し渡すと、男は現金を奪って徒歩で逃げた。(「社会面」、2006年)
『朝日新聞』の社会面記事では、こうした場合、原語の選択・使用が一つの慣用となっているようであるが、その理由については明らかでない。
8.結論
以上の検討結果は、次のようにまとめることができる。
(1) 「コンビニ(エンスストア)」と「携帯(電話)」の両方で影響力の大きい上位3アイテム(②、⑤、⑦)は、それぞれのカテゴリーの作用の向きも同じであり、略語か原語かの選択・使用に同じように影響している。ただし、カテゴリーの影響の程度の違いから、いずれも、「コンビニ(エンスストア)」の方が「携帯(電話)」より、略語の口語性が弱いことを示唆している。
(2) ①と⑥は、いずれも「携帯(電話)」での影響力が大きく、口語的な紙面では略語の、文章語的な紙面では原語の選択・使用が促進され、また、丁寧体の記事では原語の選択・使用が促進されることなどから、略語「携帯」の口語性が強いことを示し、一方で、「コンビニ(エンスストア)」ではいずれの影響力も弱いことから、略語「コンビニ」の口語性が弱いことを示している。「コンビニ(エンスストア)」で影響力が認められた④文脈的意味については、略語の口語性との関連は見出せない。
これらの結果は、略語の使用・定着が進んでいる「コンビニ(エンスストア)」の方が、あまり進んでいない「携帯(電話)」よりも、略語の口語性が弱いことを示していると言ってよい。したがって、数量化理論Ⅱ類を応用する本稿の方法は、略語の口語性の弱化が書きことばにおけるその使用と定着の要因であるという従来の「仮説」を実証するための、その方法論として一定の有効性をもつものと結論することができる。
[1]加藤大典編(1995)『略語大辞典』丸善
[2]田中章夫(1978)『国語語彙論』明治書院
[3]村上征勝・金明哲(1998)『講座人文科学研究のための情報処理5 数量的分析編』尚学社
[4]古谷野亘(1988)『数学が苦手な人のための多変量解析ガイド 調査データのまとめかた』川島書店
[5]朝日新聞オンライン記事データベース『聞蔵Ⅱビジュアル』(『AERA』『週刊朝日』は除く)を、大阪大学附属図書館を通して利用した。
[6]使用頻度は、一般名(普通名詞)の単純語として用いられた場合だけをカウントし、合成語の構成要素や固有名詞として用いられた場合は除いている。
[7]クドヤーロワ・タチアーナ(2011)「現代新聞における略語使用の変動傾向」『計量国語学』28-3
[8]クドヤーロワ・タチアーナ(2012)「現代新聞における略語使用の変動傾向とその類型」『待兼山論叢』46(日本学篇)
[9]統計解析には、"HALWIN"(Ver6.24、現代数学社)、および、群馬大学社会情報学部・青木繁伸氏作成によるデータ解析サイト"Black-Box"(http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BlackBox/BlackBox.html、2014年9月30日アクセス)を利用した。
[10]菅野も「マスコミ言語の省略表現」(『日本語学』1993、12-10)において指摘するように、語形の長い原語を何度も使用することは、書き手・読み手の双方にとって負担となるという事情もあるだろう。
[11]オピニオン面は、専門家や識者の意見だけでなく、一般読者からも様々な意見や感想が寄せられており、それらには会話的な表現が多い。また、(「家庭面」と「くらし面」を合わせた)「生活面」にも、読者からの投稿のほか、日々の暮らしに役立つ情報が掲載されて、一般読者に馴染み深い用語が数多く使われており、いずれも、口語的な性格が強い紙面であるといえる。
【参考文献】
高木廣文・佐伯圭一郎・中井里史(1989)『HALBAUによるデータ解析入門』現代数学社
宮島達夫(1996)「カテゴリー的多義性」『日本語文法の諸問題 高橋太郎先生古希記念論文集』ひつじ書房
森岡健二(1988)「略語の条件」『日本語学』7-10
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